桜まつりの夜 

カテゴリ:相方Uさんの記事

  桜まつりの夜           

 桜祭りの出店で買い食いをしようと、メルママと言い合わせて出かけてきたので、花のトンネルを愛でたのは五秒がいいところでした。
 会場になっている市役所通りでは、屋台が四列縦隊で花見客を待ちかまえていて、人たちは思いおもいの獲物、ではなく、食べ物を手に、そぞろ歩いていました。
 私とメルママは押しよせる人波を食欲でかきわけながら、眼光するどく屋台を物色して行きました。すると、さすがにメルママです。いち早く「うずらの卵入りタコ焼き」のノボリを発見しました。
「タコ焼きにウズラの卵をいれたんだ。すばらしいアイデア」
 感激のうちに、それっとばかりに行列にならびました。
 が、列の長さはいっこうにちぢまりません。
 大皿に山のように盛られているタコブツと、白い柔肌をみせてお湯のなかで泳いでいるウズラの卵の群れが、店の前面にこれ見よがしにおかれています。
 それだけでもたまらないのに、焼き終わって完成品になっているタコ焼きたちがプラ容器に入れられて、タコ山の横で居並んでいるというのに、店のおっさんときたら、タコ焼きのはいったプラ容器のひとつを手にとると、ゆ~くりと、ゆ~くりと、行列している人たちに見せびらかすように、タコ焼きにネギをふりかけているのでした。
 は、はやくしてくれ!
 ほとんど絶叫のようにつぶやいていました。
 店のおっさんが、チラリ、と私をみました。
 わ、わかったから、はやくしてちょーだい!
 握りしめていた五百円玉をおっさんに手渡して、大粒のタコ焼き六個を手に入れたのでした。

 このようにして悪戦苦闘苦の末に手に入れたタコ焼きを、メルママと頬張っていると、
「今晩、なに食べる」
 とメルママがいいました。
 タコ焼きを食べつつ晩飯の話しはないだろうと思いましたが、
「そうだね、屋台風鉄板焼きかな」
 私がいうと、
「いいね。イカ、エビを焼いて食べるべし」
 と即決をしたのでした。
 それから、屋台をハシゴして家に帰ったのでした。

 そして、今、たらふく食べて満足したらしいメルママが私のよこで眠っています。
 ついさっき、食事をしていたテーブルのむこうでは、メルママに赤い服をむりやり着せられたメルが、諦観の境地に達したらしいしおらしい姿で眠っています。
 そのメルの隣では、うさぎの姫様がうずくまって、私をじっと見ています。

 今。私はここにいます。
 メルママも、メルも、うさぎの姫さまも、今、ここにいます。
 今って、みんなが集うテーブルのようだな。 
 あしたも、このテーブルで、メルママと美味しいものが食べられますように。
 うさぎの姫様が、じっと私をみています。
 おお、そうだ。あんたにも美味いものをやらねば。
 姫様にキャベツの芯をやりました。
 姫様はキャベツに襲いかかります。
 それから、しゃりしゃりと確かな音をたててキャベツをたべています。
 あんたも、今、生きているんだな。
 
 春の夜。
 か。



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